2007年6月3日(日)

二月堂

奈良県奈良市雑司町406-1 (東大寺)

二月堂

「奈良のお水取りが終ると、もう春だねぇ」

新聞に掲載された、東大寺二月堂の舞台廊から松明の火の粉が降り注ぐ写真を見ながら祖母がそうつぶやいたとき、わたしは心底驚いた。何十年も前の中学か高校の頃のことだ。

見晴し

わたしと祖母はちょうど暦一回り年が離れているので、その当時はもうかなりの老人になっていた。わたしが生れたときからおばあさんだったから、彼女に子供時代があったとは想像もつかず、ということは学校にも行っていない無学な人だなどと勝手に決めつけていたので、自分の知らない「お水取り」というまつりを知っていたことに驚き、さらに自分がそんな失礼なことを考えていたことを恥じた。

すでにその当時、泉谷しげるは「季節のない街に生れ 風のない丘に育ち…」(春夏秋冬、1972)と歌っていた。さらに時代は進んで、今や寒暖を肌で感じることは少なくなり、冬でもトマトやキュウリを食べ、Rのつかない月にもカキフライがランチメニューに出たりする。LOHASとかECOとか、今頃になってまた少し季節感を取戻そうという(頭でっかちな)雰囲気があるけれど、わたしは遠い昔のこの祖母の言葉にそれを学んだような気がする。

今でも松明の踊るニュース映像を見るたび、「明日から暖かくなるんだなぁ」と心が弾んでくる。