旧大阪ビル東京分館一号館
東京都千代田区内幸町1-2-2(日比谷ダイビル)
ソウルオリンピック(1988)の準備で沸立っていた1986年暮れから87年正月まで、仕事で韓国に滞在したことがある。日本なら忘年会やら新年会やらで盛上がっている時期に、韓国の人はどうするのだろうと聞いてみたところ、オリンピックのせいでろくなことがないとぼやかれた。
一緒に仕事をしていた彼は、補身湯(ボシンタン)という犬の肉を使った料理が好きで、年の暮れは山荘(サンジャン)に集まってその鍋を囲むのを年中行事にしているという。また、お正月にはお祝いのために豚の頭を飾る習慣があり、この時期には市場に豚の頭がずらりと並ぶのだが、欧米諸国から韓国人は野蛮だと誤解されないために、犬も豚も街から一掃されてしまったというのだ。
奇しくも同じ頃、東京でも街から豚の頭が消える事件があった。ビルの壁面上部に数十の獣面彫刻をずらりと並べた大阪ビル東京分館一号館が解体されてしまったのだ。村野藤吾設計により昭和2年(1927)に建てられたもので、鬼や怪獣はともかく他では見ることのできない豚の面が含まれていたので、惜しいことをしたと当時話題になった。
幸いなことに豚たちは改築された日比谷ダイビルに移されて、庭の噴水や新ビルの壁面で新生活を送っている。韓国の市場にも、犬肉や豚の頭は戻ってきているそうだ。