野川緑地公園の梅
東京都狛江市和泉本町
井上ひさしの「ブンとフン」(朝日ソノラマ、1970)に、盗みの現場に俳句を残していく「おはいはいの俳助」という泥棒が登場する。子供の頃に読んだ本なのに、彼の詠んだ「梅が香に ぬっと刑事(でか)のでる 山路かな」という句が忘れられなくて、梅園などに行くと、ここでデカがぬっと出てきたら…とあらぬ想像をして苦笑いしている。
元ネタは松尾芭蕉の「梅が香に のつと日の出る 山路かな」だが、日の出なら燦々とかキラリンとかもう少し華やかな表現がありそうだ。「のつと(ぬっと)」ではまさに泥棒か刑事にふさわしい。
旧野川跡を緑道化した野川緑地公園は、両側を住宅に囲まれ、ぐねぐねと曲がりくねって視界が悪い。出会い頭に気をつけてそろそろと自転車を転がしていくと、曲がった先に陽を浴びて輝く梅の花がジャジャーン!と現れた。少し陰になって寒々とした道を走ってきてこの景色にであうと、あぁ春が近いんだなぁ、としみじみとうれしい気分になってくる。
本当は、「ぬっと現れた」と書きたくて前振りをしてきたのだが、さすがに梅の花にそれはないだろうと思い直した所だ。