キツネノカミソリ
東京都国立市谷保6003 (城山)
昼なお暗い城山(じょうやま)の林床を、鮮やかなオレンジ色の花が覆っている。彼岸花科のキツネノカミソリが、その名のとおりの妖しい気配を漂わせて群れ咲いているのだ。
十分な露光が得られない林の中で手ぶれを防ぐため、保護用に設けられた木の柵にカメラを固定して、息を止めて被写体を追う。低い柵の前でうずくまり、身じろぎもしない異様な姿に、通りかかった子供たちが声をかけてきた。
「何の写真撮ってんの〜?」
返事をしてはダメダメ。石のようになって、被写体に集中だ。そう、獲物を狙うキツネのように体を低くして、静かに静かに。そして、剃刀のようにシャープな一閃でシャッターを切る。
おかげで半ズボンの足は大量の蚊に喰われて、血だらけになってしまった。