キリン
東京都中央区日本橋 3-4-10 (旧ツムラビル)
弟が昔アフリカに住んでいたことがあって、むこうには野良キリンがいるんだぜ、と教えてくれた。サバンナに暮らしているキリンではない。街中を闊歩して、ひとんちの庭の木の葉をむしゃむしゃと食べていたりするのだという。写真は見せてくれなかったので、お得意のほら話かも知れないが…。
JR東京駅八重洲口、ブリジストン美術館(※)の斜向い、もとのツムラ本社ビルの角にキリンの像が建っている。東京に野良キリンがいたら、こんな感じなのだろうか。もっとも、王冠をかぶり金の縁取りのある衣装を纏った高貴なたたずまいを、野良と言っては申し訳ない。さながら、お忍びで庶民の暮らしを見に街へやってきたエジプトの王様と言ったところか。あまりに自分の住むところと違いすぎて、戸惑っているように見える。
ふと窓の外を見ると、わが家の庭を野良猫が横切っていく。じろりとこちらを睨んだ目が、一瞬、ライオンに見えた。野良キリンはまだしも、野良ライオンがいたらかなり怖い。
作者は鍛金彫刻家の安藤泉。1989年作。
※ 現アーティゾン美術館、2019年7月改称