本郷弓町の楠
東京都文京区本郷1-28-32
20年ぐらい前、本郷一丁目にある会社に営業に通っていた事がある。水道橋の交差点で信号待ちをしていたら、ふと、その会社の近くにあった大きなクスノキのことが思い出されて、本郷の方へ曲がってみた。
当時、クスノキの傍らには「楠亭」という高級フランス料理屋の風情のある洋館が建っていた。建物を覆うように枝を広げる大楠のおかげで、昼でもあたりが薄暗かったような記憶があるのだが、久しぶりに訪れてみると楠亭の姿はなく、大楠もマンションに半身を削られて窮屈そうにしていた。フランス料理屋はマンションの一階で営業していたが、経営者が変って横文字の名前になっている。
人は移り街は変っていくけれど、樹齢数百年という大楠は、じっとこの地にとどまり、世の移ろいを見守っている。今までも、そしてこれからも。