2011年1月25日(火)

山手80番館遺跡

神奈川県横浜市中区元町1-77-5(元町公園)

遺跡

未曾有の大震災によって崩れ去った洋館も、石造りであったが故に灰燼に帰することなく廃墟として残ってしまった。間取りがはっきりと見て取れるその跡からは、そこで営まれていた生活のリアルなイメージが立ちのぼってくる。

石の家に住んでいるヨーロッパの国々には、古くは古代ローマ時代からの遺跡があちこちに残っていて、なかにはいまだに現役で使用されているものもあるとか。あるいは打ち棄てられて、朽ちることも叶わず廃墟のまま残された城や街もあるという。人々はそこに残された長い歴史の記憶とともに暮らしている。

木と紙の家に住む日本では、戦乱や災害の後に残るのは「夏草」ばかり。やがてその跡もならされて跡形もなくなり、縁もゆかりもない別の人たちがそこで生活を始める。記憶ではなく、思い出だけが残っていく。

元町公園の片隅に残された西洋館の遺跡を前にして、そんな彼我の違いに思いを巡らせながら、これは復元された洋館よりも異国情緒のある風景かもしれないと、ふと思った。

横浜市緑政局の解説