Mari
東京都新宿区西新宿2-8-1 東京都庁 都民広場
マリは不機嫌だ。
両手をパンツのポケットに無造作に突っ込み、少し斜に構えたような格好で都庁第一本庁舎のツインタワーを睨んでいる。「なんなのかしらねぇ。偉そうにして。」とでも言っているかのようだ。
あるいは、マリには、それとは別に気に入らないことがあるのかもしれない。
ミロのビーナスの昔から、女性の裸身は絵画や彫刻のモデルとされてきた。ミケランジェロのダビデ像のように、男性がモデルになっている例もないわけではないが、それほど多くはない。
都民広場に並ぶ彼女以外の彫像も、そのほとんどが裸婦、またはそれに近い薄衣の女性像だ。
「なんで女ばかりが公の場に、裸身をさらけ出さなきゃいけないのよ。」
あぁ、なるほど。今まで気がつかなかったけど、言われてみれば確かに、ちょっとおかしいような気もしてくる。作者の朝倉響子がそういうことを思っていたかどうかはわからないが、わたしにはそんなマリの声が聞こえたような気がした。
※ "Mari"(朝倉響子、1984)。写真右の赤いオブジェは、"my sky hole 91 Tokyo"(井上武吉、1991)の右半分