海上挺進戦隊慰霊碑
広島県江田島市江田島町幸ノ浦2-2
瀬戸内の島々をめぐっていると、あちこちで釣りをしている人を見かける。漁業の仕事というわけでもなく、ばっちりと道具をそろえた趣味人でもなく、ちょっと散歩に出たついでにやってみた、という感じの人が港の突堤の先や堤防の上から釣り糸を垂らしている。
のんびりと釣り糸を垂れている人の姿を見ると「平和だなぁ」と思うことがある。それはいつもならば、時間に追われないゆとりのある暮らしをしている、とか、じっと魚を待っていることが辛くないほどに天気や海の様子が穏やかであったりすることに対しての感想なのだが、ここで感じるのは文字通りの「平和」。戦争のない世界で幸せに暮らせることに対する安堵の気持ちだ。
かつて、呉とその周辺の島々には数多くの軍関係の施設があった。機密を守るためにピリピリと張りつめた空気が流れ、出征して帰らない人を思う重苦しい雰囲気もあったことだろう。のんびりと釣りができるような日常ではなかっただろうと思われる。
戦争が終わって70年以上が経った。幸ノ浦の突堤で釣りをしている二人は、ここで爆薬を積んだボートで敵艦に体当たりする特攻部隊の訓練が行なわれていたことを知っているだろうか。少なくともわたしは、そんなことは考えもせずに呑気にサイクリングを楽しんでここまで走って来た。
歴史家は忘れてはいけないと言うかもしれない。その通りだと思う一方で、それを知らずに無邪気に海の恵みを楽しんでもいいじゃないか、とも思ってしまう。それはいけないことだろうか。