切欠のカタクリ
東京都あきる野市切欠1849付近
カタクリの自生地は、少し荒れていた。それが自然の姿なのかもしれない。過保護には育てられていない、そんな感じだ。
あきる野では有名なカタクリの群生地と聞いてきたのだが、訪れる人もなくひっそりとしている。暗い森の中にぽっかりと空いた空間に、そこだけ暖かな陽が差して別世界のように輝いている。
ここにひとりぼっちは寂しい。「この山を下りたら、世界が全然違うものになっていた。なんてことになったらどうしよう」。そんなリップ・ヴァン・ウィンクル(Rip van Winkle)になったような考えが頭をよぎる。
たとえばこれが、純白のヤマユリの園だったらこんな考えは起きなかったことだろう。可憐なように見える一方で、髪を逆立てた異形の面影も見え隠れするカタクリの姿。紫色に輝くこの花には、ただきれいなだけではない妖しい魔力が潜んでいて、それがわたしを不安にさせる。