2020年3月25日(水)

山の上ホテル

東京都千代田区神田駿河台1-1

正面

「カンヅメ」という言葉を知ったのはいつだったか。書けない作家を編集者がホテルや旅館に軟禁して、集中的に仕事をさせる方法だ。缶詰のように密封された(閉じ込められた)からとも、館(ホテル)に詰め込まれたから館詰ともいわれる。

それと同時に「山の上ホテル」の名前も記憶したような気がする。出版社の多い神田に近いことから、かつては(今も?)カンヅメ用ホテルとして多くの作家に利用されたという。

ヒーローカット

軟禁して原稿を書かせるとは、働き方改革が叫ばれる現代からみれば最悪の労働環境だが、カンヅメにされてこそ一流作家の証と憧れる人もいるとかいないとか。ここではないが、カンヅメ気分を味わう【ホテルでかんづめプラン】を商品化しているホテルもあるほどだ。

建物は垂直方向が強調されたアールデコ様式。細部の意匠も凝っている。ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計で昭和12年(1937)に建てられた「佐藤新興生活館」がもとになっている。

戦後GHQに接収され婦人部隊の宿舎として使用された後、昭和29年(1954)からホテルとして営業している。「山の上ホテル」という名前は、GHQ時代の愛称「Hilltop」を意訳したものだ。丘の上と山の上ではかなりかけ離れた感があるけれど、大通りから明大校舎に挟まれた細い路地にはいって奥まったところにあるホテルに向って坂を登る感じは、例えば山の上に建つ名刹にお参りする気分に似ていると言えなくもない。

その俗世と隔絶されたような雰囲気が、文豪たちに愛された由縁なのかもしれない。

※ 建物の老朽化への対応を検討するため、2024年2月13日より当面の間ホテルは休館中