イヌジマのアリ
岡山県岡山市東区犬島313
民家の塀の上に蟻がいる。正確に言えば、アリのオブジェがある。案内がないのでアート作品なのか、「…のようなもの」なのか現地ではわからなかったが、あとで調べてみたら細見博子という作家の作品だった。
塀の中の庭の奥に見える桐の木(の成長)とそれを囲むインスタレーションが、2010年から「犬島時間」というイベントで毎年彼女が発表している作品らしい。この蟻は、小さな蟻でも集まれば大きなものを運び作ることができる、ということで「犬島時間」の完成までの課程を表現する存在として作品を見守っている。
庭は手入れが行き届かずに荒れているように見える。とりあえず来年のイベントまでこのままなのか、それとももうこの作品は使命を終えて放置されているのかはわからない。
以前は、モナ・リザのように何百年という時を経ても残り評価されるものが良い芸術作品だと思っていたけれど、最近の残ることを意識していない(ように思われる)アート作品を見るようになって、少し考えが変わってきた。
物理的にいつまでも残ると思われる絵や彫刻でも、経年劣化や天災、戦災などで失われていく可能性は十分にある。価値がわからなくて破棄してしまう場合もあるだろう。良い状態で保管されたとしても、倉庫にしまわれたまま展示されなければ、ある意味存在しないのと同じと言えるかもしれない。
千年前から存在していようが、今この一瞬だけで消えてしまう表現であろうが、結局わたしにとっては、乱暴な言い方になるが、出会ったときに心の中に芽生えた感情(感動)が全てであって作品はそれを想起させるための触媒でしかないということなのだ。