2020年6月3日(水)

森の気配 / Time Passage

東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティ ガレリア

森の気配

お城の石垣のような石積みの壁の隙間から、小鳥のさえずる声が聞こえてくる。樹々の梢を揺らす風やせせらぎの音も混じっているようだ。緑豊かな自然とは対極にあるように思える冷たい石の壁も、元はと言えば大地から切り出されたもの。自然の恵みだということに思い至る。

通路の両脇には、7セグメントディスプレイという形式で数字の「8」が記されている。宮島達男のタイム・パッサージという作品だ。

Time Passage

彼の作品は直島や東北で見たことがある(※)。ランダムに明滅する無数のLEDで、無限にループする時間、歴史や人生を表現するというものだった。

しかしここに刻まれた数字たちは明滅しない。ということは「8」ではなく「無」なのかもしれない。すべてが同じ数字なのか、違うのかもわからない。

こどもが階段で数を数えて遊ぶように、あるいは長い参道の石段を上りながら段数を数えて自らを励ますように、回廊の緩やかな階段を上り下りする人の頭の中にはさまざまな数字が浮かんでくることだろう。この数字たちは、そうして鑑賞者によってLEDのイメージに変換され、それぞれに個別の時を刻んでいく。

しかし、「時」とは移ろうばかりのものとは限らない。時を止めたい、今あるいはあの時の一瞬が永遠であって欲しい、と思うこともある。もしかしたらこれは、決して変わることが無いよう石に刻み込まれた時の記憶でもあるのかもしれない。

・サウンドインスタレーション「森の気配」、山口勝弘、2004 / 「タイム・パッサージ」"Time Passage"、宮島達男、1996

※ 家プロジェクト 「角屋」("Sea of Time '98"他)、Reborn-Art Festival 2017 「時の海-東北」