作品のない展示室
東京都世田谷区砧公園1-2 世田谷美術館
COVID-19の感染拡大が止まらない。
例年通りなら、今日はお盆休みの最終日。帰省や旅行の人たちで、日本中が大混雑していたはずだった。それが一転、静かな夏になってしまった。
遠くへは行かれないので近場で美術館でも…と思っても、予約をしたりマスクをつけたりするのが鬱陶しい。美術館側も他館から作品を借りることができず、コロナ対策にも手間がかかるので思うように展覧会が開けないで困っているようだ。
そんな中、世田谷美術館が「作品のない展示室」を公開している(※)。
内井昭蔵が設計した美術館そのものを作品として鑑賞することが趣旨であるようなのだが、一番の見どころは、いつもは閉じられていることの多い展示室の窓に映る景色だ。
窓の外に広がるのは、著名な作家による日本庭園でも天下の絶景でもなく、意匠を凝らした花壇や色鮮やかな紅葉が見られるわけでもないけれど、額縁を嵌めたように四角く切り取るだけで文化財級の名画のように見えるから不思議だ。絵画の原点は、まさにこういうことだったのかと発見する。
ウィルスや酷暑、街の喧騒や難しい人間関係などから切り離されて、いっとき静謐な空間に身を置いてみる。窓の外に見えている日常の延長線上にありながら、ちょっと距離を置いて、例えは悪いけれど、死んでしまった人が向こうの世界から近くて遠い現世を見ているような感じ。不思議に安らかな気分になる、至福のひとときだった。
※ 会期は、2020年7月4日(土) 〜 8月27日(木)