彼岸花と旧永井家住宅
東京都町田市野津田町3270 薬師池公園
ヒガンバナには詩情がある。郷愁を感じさせる、と言ってもいいかもしれない。夕焼け空の下、家路を急ぐ子どもたちを描いた絵本の一場面が、まぶたの裏に浮かんでくるような感じ。そう思うと、彼岸花あるいは曼殊沙華と漢字で書きたくなる。
それは例えば、黄金色に染まった田んぼの中を行く畦道だったり、道端にひっそりとたたずむお地蔵さんだったり、ビルが林立する都会では見られない景色と一緒に思いだされる。
そう。彼岸花はなぜかいつも今ではなく、思い出の中で咲いているのだ。
薬師池公園に保存されている旧永井家住宅の周りで彼岸花が咲いている。ここに田んぼは無いけれど、茅葺屋根が黄金色の稲穂が一面に広がる景色を連想させる。その絵に真っ赤な彼岸花がよく似合う。わたしの子ども時代には、すでにこういう景色を東京で見ることはなかったけれど、DNAの奥に潜んだ記憶の風景がよみがえってくるのだろう。そんな気がした。