2021年4月28日(水)

木の耳

東京都府中市浅間町1-3 府中市美術館

木の耳

森の中ではいろいろな音が聞こえる。

木の葉を揺らす風の音。落ち葉を踏んで行く動物の気配。鳥のさえずりや妖精のささやき。泣いている迷子もいるかもしれない。

木の声

そんな様々な音を聞き漏らすまいと森の木々は耳をそばだてているのだろうか。これが全方向、全音域に向けた耳の形なのかもしれない。

作者は全盲のアーティストだ。視覚のない彼が世界を把握しようとそばだてている耳もこんな感じなのだろうかと考えて、あっ彼にはこのイメージが見えていないのだと気がついた。粘土をこねてブロンズ像の型を造る、その手の感覚からこの作品は生み出されている。

…ということは、帰って来てからわかったことだ。知っていればわたしも目をつぶって、手だけで作品を味わってくるべきだったかなと思うのだが、目が見えてしまうわたしには彼と同じイメージを描くことはできないだろうな。

・「木の耳」"TREE EAR"、光島貴之、2002