八流の滝
福島県須賀川市小倉向山101付近
深山幽谷でもない、ありきたりな農地の細道を道標に導かれて行った先に小さな滝が落ちていた。人工的な用水路の堰堤かとも思ったが、左岸は険しく切り立った断崖になっていて、そこから崩れ落ちたものかもしれない大きな石が滝の下流側にゴロゴロと転がっている。荒々しい自然の姿がそこにあった。
滝の上流には岩と林に囲まれた暗く静かな回廊が続き、その奥に岩を穿ったトンネルがあった。沢の水はそこから流れて来ているようだ。
水に入る準備をしてこなかったので近寄れないが、手彫りで造られているように見える。案内板には「網の輪隧洞」と書かれているだけでそれ以上の説明はない。隧洞(トンネル)は人工だが、沢の流れは自然なのか?
全く人気のない密林の奥で、例えばアンコールワットのような、古代の遺跡に出会ったような感じ。ほんの数分前まで見ていた、明るく開けた里山の風景とのギャップに戸惑う。今朝方発ってきた須賀川の町は、M78星雲ほどに遠く感じられる。その違和感がかえって心地よい。
旅から帰った今も、ふとした折にあの時の世界にただ一人取り残されたような景色を思い出して、あの場所に戻りたいと思うことがある。