工場地帯のオブジェ
神奈川県川崎市川崎区千鳥町
「工場萌え」というようなことが言われるようになって久しい。
かつては公害の元凶として嫌われ、錆や油に汚れた醜怪な姿をわざわざ見ようという人はいなかった。それが今は鑑賞ツアーが開かれるほどの人気になっている。
その多くは24時間稼働する工場の「工場夜景」を愛でるものだが、複雑に絡まった配管や巨大なタンクなどを見ることに楽しみを感じる人たちもいるようだ。
振り返ってみれば映画「ブレードランナー」(1982)や「未来世紀ブラジル」(1986)以降、現代の人たちが思い描く未来像は、わたしが子どもの頃に夢見ていたようなキラキラしたものではなくなっている。工業地帯の景色はそういう未来像に重なって見えるのかもしれない。
千鳥運河に架かる千鳥橋から京浜運河を潜る川崎港海底トンネルに至る道路沿いに、碇や歯車などの工場に関連したオブジェが並んでいる。崩れかけた煉瓦塀のようなものもあり、川崎の町が高度経済成長期の勢いを失い始めた頃に、土地の記憶を遺構として留めておこうとしてつくられたものなのだろう。
工場萌えなんていうブームが来るとは、その頃は想像もしていなかったに違いない。