のと鉄道と恋
石川県七尾市中島町塩津ム 笠師保駅(恋火駅)
高校の時、同級生が能登に一人旅をしたらしい。無人駅でほとんど来ない列車を待っていると、同じく一人旅の若い女性に声をかけられたという。年上の女性とのひと夏の恋、旅先でのアバンチュール…。聞いていたわれわれは大いに盛り上がったが、彼は勿体つけて多くを語らなかった。
今にして思えば、たぶん何もなかったのだろうと思う。しかし、半世紀近く昔のうぶな高校生男子には刺激的な話だった。
彼の思わせぶりなニヤニヤ顔を久しぶりに思い出した。
のと鉄道の笠師保駅には恋火駅という愛称がつけられている。山の男神と海の女神が年に一度海上で逢瀬を遂げるという「塩津かがり火恋祭り」にちなんで命名された。2015年に改修された駅舎には、あちこちにハートマークがあしらわれていてかわいらしい。
2005年に廃線になったのと鉄道の能登線には恋路海岸に因んだ恋路駅があり、急行「のと恋路号」が運行されていた。能登半島は恋に縁のある土地なのかもしれない。
笠師保駅の隣の能登中島駅(演劇ロマン駅)には、旧国鉄で活躍した鉄道郵便車が保存されている。この郵便車では、車内のポストに手紙を投函すると特別な消印を押してもらえる「思い出ゆうびん」というサービスが提供されている。ラブレターにもいいんじゃないかなと、また「恋」が頭に浮かんできたけれど、今の人はラブレターなんか書かないんだろうな。
※ 写真は穴水駅に保存されていた「のと恋路号」。また「演劇ロマン駅」は、この町で仲代達矢の無名塾が定期公演を行う「能登演劇堂」に由来している。