猫ビル
東京都文京区小石川2-18-12 旧立花隆事務所
大通りから一歩中に入った路地の奥に黒猫が潜んでいる。かわいいニャンコちゃんではなく、ヒョウやライオンの仲間だということを思い出させる凛々しい顔で、眼光鋭く道行く人を睨みつけている。
真っ黒なこのビルには、昭和49年(1974)に田中金脈問題を暴く記事を発表して田中角栄首相退陣のきっかけを作り、その後も多方面で多くの著作を残したジャーナリスト立花隆の個人事務所が入居していた。
ビルは彼の高校以来の友人である河合尹盛(ただもり)の設計で平成4年(1992)に建てられた。巨大な黒猫は舞台美術家の妹尾河童が発案し、映画や芝居の背景画家・島倉二千六(ふちむ)とそのチーム「アトリエ雲」のメンバーが3日がかりで描き上げたそうだ。完成に際して、ビルの真向かいに住む人が「毎日この猫に睨まれるのか」と嘆いた話が伝えられている。
立花氏の死後(2021年逝去)ビルは人手に渡り、猫の絵の存続も危ぶまれているらしい。
ビルの横を通る六角坂の説明には、周辺に住んだ人物として江戸時代の六角越前守や明治・大正の歌人・島木赤彦の名前が挙げられている。後世になって、ここに立花隆が追記されることはあるだろうか。是非そうなってほしいと私は思うのだが…。