華水の滝
東京都西多摩郡檜原村樋里4403付近の先
都道水根本宿線の小岩バス停の先、山道への入口に立つ案内板には「徒歩約30分」と書かれていた。同じように「千足バス停から約30分」と案内されていた天狗滝の、胸突き八丁の急登がふと頭をよぎる。ずいぶんと山奥へ連れて行かれる感じがして、少し気合いをいれて歩き出した。
踏み跡ははっきりしているけれど、谷側の柵が壊れていたり木道が朽ちかけていたりする道は、尾根の端をぐるりとトラバースして(横切って)なかなか高度が上がらない。と思う間に水流が現れたと思ったら華水(はなみず)の滝の前だった。
わたしの足で15分ほど。もしかしたらこの先にまだあるのかもしれないと不安になったけれど、道はわさび田に突き当たって途切れている。みずみずしいわさびの葉と白い花、そのまわりにはニリンソウのかわいい花が散らばって雰囲気は秘密の花園っぽい。
わざわざこの滝のためだけに、一時間に一本あるかないかのバスでやってくる人はいないのだろう。車や自転車で来る人だって少ないに違いない。華やかな名前とは裏腹に、ひっそりと忘れられたような滝の眺めを独り占めしてちょっといい気分。
あたりには、人はもちろん動物の気配もなく、さわさわと静かに落ちる滝の音が聞こえるばかり。ひとりぼっちではあるけれど、不思議に寂しさは感じられない。それはきっと、新緑の山に満ちているたくさんの命たちに包まれているからなのだろう。木々や草花や動物、あるいは神とか森の精とかいうものかもしれない。どんなところにあっても一人になることはないのだ。そう思えることが、今はうれしい。