2013年1月11日(金)

虫塚

東京都台東区上野桜木1-14-11 寛永寺

虫塚

子供の頃、母方の実家に遊びに行くと、軒先に竹で編んだ虫籠が吊してあった。中に入っていたのがなんの虫だったのかは記憶にないが、キリギリスかスズムシか、秋の虫が美しい音色を聴かせてくれていたように思う。

寛永寺本堂

僕らの虫かごはプラスチック製だし、捕まえたのは騒々しい蝉や鳴かないカブトムシだったから、高級そうな虫籠がうらやましかった。風流なんてものはまだわからなかったけれど、何となく大人の虫遊びは違うな、素敵だな、と思ったものだった。

寛永寺の境内の植え込みの陰に、それこそ虫が潜むようにひっそりと置かれた虫塚の碑は、写生に使った昆虫を供養するために文政四年(1821)に建てられたものだ。

伝えられる図帖には、写真に撮ったかのような精緻な筆遣いで描かれた昆虫たちの姿が踊っている。現代人の我々は理科系の図鑑を想起するけれど、その描写は科学的興味ばかりで写生されたものとは思えない美しさだ。鳴き声ばかりでなく、色鮮やかで造形美にあふれたその肢体をも美しいものとして愛でる心が、江戸の風流人にはあったのだ。

(台東区教育委員会の説明板) : 虫塚 | 寛永寺本堂