近衛輜重兵大隊屋内射撃場跡
東京都世田谷区池尻4-5-2
物事の状態を指して「温泉旅館のようだ」と言うことがある。観光ブームに乗って増改築を重ねた結果、館内が迷路のようになってしまった温泉旅館の建物になぞらえて、場当たり的な対処によってグチャグチャになってしまった状況を比喩しているのだが、最近の計画的に造られたリゾート施設しか知らない若者には通じないかもしれない。
駒場東邦高校と警視庁第三方面本部の南側に、そんな温泉旅館風の建物が建っている。屋根の高さも道路面に対する奥行きもまちまちで一見別々の建物が並んでいるように見えるけれど、すべてが連続して150m近い長屋になっている。
高校と警視庁を含み北側を走る淡島通りまでの一角には、かつて旧陸軍の近衛輜重兵大隊が駐屯しており、この建物はその射撃訓練場の跡だ。建物が複雑な形状をしているのは、音の反響を防ぐためなのだという。
貸しスタジオらしき看板は掲げてあるものの、壁には蔦が絡まり落書きもあって、使用されている雰囲気は感じられない。もともとがつぎはぎだらけのバラックのような構造だっただけに、より一層廃墟感を強くした佇まいで不思議な景観を作り出している。