銀杏折取禁制碑
東京都大田区西六郷2-33-10 安養寺
「駐車禁止」「撮影禁止」「芝生でのゴルフ禁止」「携帯電話は電源をお切りください」
世の中にはいろいろなことを禁止する掲示があるけれど、紙のポスターだったり錆びやすい金属板だったり、主張がはっきりしている割には脆弱な存在のものが多い。
雨風で朽ちてしまったり、心ない人に毀損されたり、管理者が更新をしなければ、掲示板の存在のみならず禁止されていることすら忘れられていく運命にある。
そんな現在の禁止掲示とは反対に、300年以上も頑固に取締りの目を光らせている禁制碑がある。
多摩川サイクリングロードからも見える、土手沿いの安養寺(古川薬師)にあるこの碑には、境内にあるイチョウの乳(気根)を折らないこと、と言う注意書きが書いてある。当のイチョウは既に無く、境内の木は気根のない若木に替わっているのに、禁止事項だけが延々と受け継がれているのだ。傍らの昭和51年(1976)に立てられた説明板は、この碑の10分の1の歳月でもう文字が薄れて読みにくくなっているというのに。
何百年でも残る「石」の確固たる存在感に対する、ほんの数年前のことすら残らない人の記憶や木、紙、デジタルデータなどの儚さ。そんな幻のようなもので構築されている今の時代に対する虚無感みたいなものを、散歩先で古い石造物に出会うたびにいつも感じている。