木下川薬師
東京都葛飾区東四つ木1-5-9(浄光寺)
北区の岩淵水門で隅田川を分けた後の荒川は、治水のために荒川放水路として掘削された人工河川だ。国策として強引に流路が決められたため、多くの住人や関連施設が長年親しんだ土地を離れることになった。
四つ木橋の下流、蛇が這うように幾重にも蛇行した旧中川を荒川が真っ二つに分ける地点の近くにある木下川(きねがわ)薬師も、元は現在の荒川河川敷のあたりにあった。附属幼稚園前から荒川に向かって斜めに延びた道が、旧参道の跡だ。
かつては杜若(カキツバタ)の名所として知られていたが、移転の際に失われてしまった。境内の一画に小さな庭園が造られ、往時を偲ばせる景色が再現されている。
代わりに目を惹くのが、「双龍の藤」と呼ばれる樹齢300年の藤棚だ。一株が二本の幹に分かれていることからその名が付いたという。各地の名所と比べると名前負けしているような気もするが、長い花房を垂らして甘い香りを振りまいている。
徳川三代将軍家光お手植えと伝わる「登美の松」は、戦後に植え替えられた二代目で、傍らに立つ「登美の松碑」は勝海舟の揮毫になるものだ。