廃仏毀釈
神奈川県川崎市麻生区黒川1570 毘沙門天堂
鳥居の横に並んで参詣者を迎える石仏には首がなかった。一瞬なんのことかわからず、台の上に盆栽を置くように載せられた石の塊が石仏の胴体だとわかるまでに、しばらく時間がかかった。
毘沙門天は仏教の神のはずだが、入口には鳥居があり、その奥に、まるで物置小屋のようなお堂がそっぽを向いて建っている。なんの予備知識もなく訪れたので、この光景は衝撃だった。
「廃仏毀釈」というものを歴史の授業で学んだことはあったが、たとえばキリシタンの迫害などと比べてもその影は薄く、わたしにはあまり実感の湧かないエピソードだ。世界各地に残る、歴史の変わり目に破壊された宗教遺蹟の数々をTVなどで見ても、それは場所も時間も遠い私とは縁のない世界のことだっと思っていた。それが、こんな身近なところにもあったとは…。
ここは明治の初めに廃寺となった金剛寺の跡なのだという。
一二枚の写真を撮るわずかの間に無数の蚊に襲われて血だらけになった。百鬼丸(手塚治虫「どろろ」)の手足をもいでいった魔物たちを思い出して恐ろしくなり、早々にこの場を後にした。