ヒガンバナ
神奈川県川崎市多摩区宿河原 宿河原用水
久しぶりに宿河原用水沿いを走ってみた。周辺地域には何度も来ているのでそんなに時は経っていない気がしていたが、振り返ってみれば10年以上前に桜を見に来たのが最後だった。
桜の木が大きく枝を伸ばして空を覆い薄暗くなった用水沿いで、ヒガンバナが妖気を放っている。江戸の切り紙細工のように繊細な花姿は、あまたの花の中でも独特で、とてもこの世のものとは思えない。
その美しい花も、ごちゃごちゃとまとまっていると絡まった糸くずの塊みたいで、見ようによっては人の血をたっぷりと吸い込んだ脱脂綿のようでもある。「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と看破した小説家がいたが、ヒガンバナはその血を吸って咲いているのか。
お彼岸はお墓参りの季節。私にはお盆よりも死者を身近に感じる時でもある。そんな時に咲くヒガンバナの妖気に当てられて、思いはいつもおかしな方に飛んでいく。