地中美術館
香川県香川郡直島町3449-1
水面に浮かぶ睡蓮とその水に映る周りの景色。画面を覆う鈍い色合いは水藻に濁った水の色か、池に映った曇り空か。クロード・モネが描く「睡蓮」のキャンバスには、空と地と水、あるいは具象と抽象と印象が渾然一体となった幻想的な世界が広がっている。
解釈の難しい現代アートを展示する地中美術館にモネ。観光客を狙ってわかりやすい絵を持ってきたのかな、という期待は見事に裏切られる。睡蓮も柳も池も空も全ての境界がぼんやりと滲んだ絵は、現代アート以上にわかりにくい。
梨木香歩の「裏庭」に書かれた池、あるいは「家守奇譚」で綿貫征四郎が住んでいた家の庭はこんな景色だったろうか。いや、そういう具体的なイメージを作品の中に探すのは違っている気がする。安藤忠雄の設計による無機質な展示室に掲げられた絵を前にして、鑑賞者の心の内に湧き起こるさざ波のようなもの、それがモネと安藤の共作になる作品なのだろうか。
自然光だけに照らされた作品が見せる表情は、毎日毎時間異なっている。表情は違っても真実はひとつなのか、いや、その正体も変幻自在に変わるのか、はわからない。モネは同じ睡蓮をモチーフに200以上の作品を残しているという。ここに並べられているのはその内の5作品だが、グルグル回っていると5つ以上の作品があるような気がしてくるから不思議だ。
地中からカフェのオープンスペースに出るとホッとする。"瀬戸内の美しい景観を損ねないよう、建物全体が地中に埋設された"という地中美術館全体に漂う閉塞感が一気に開放されて、そのうれしさについ財布の紐がゆるんでしまう。
サンドイッチ、おいしゅうございました。