2014年11月6日(木)

家プロジェクト「南寺」

香川県香川郡直島町本村地区

通路

現代では真の暗闇を体験することはほぼ不可能だ。3.11後の計画停電の時でさえも、車のヘッドランプや自家発電設備を備えた緊急用施設などの光で夜空はぼんやりと白茶けていた。「Backside of the Moon」(James Turrell、1999)は、その「闇」を見る(?)作品だ。

南寺

鑑賞者は、手探りで導かれた漆黒の闇の中になんの説明も無しに放置される。目を凝らし、耳を澄ませても何も感じられない。たぶん、そのうちに暗闇に目が慣れて何かが見えるようになるのだろう。あるいは何かのイベントが始まるのかもしれない。そう思って、みんなで息を潜めて待つ。

永遠に続くかと思われた孤独な時間の後、目の前に幽かにスクリーンのようなものが浮かび上がって、ピカソのゲルニカに似た絵が見えてきた。いや、バリ島の影絵芝居ワヤン・クリッ(Wayang kulit)のようにも見える。一瞬の後にそのイメージが消え、作品の説明をするガイドの声が聞こえてきた。まわりが少し明るくなった気がするが、照明が点いたわけではなく、ただ目が慣れただけのようだ。

前方で何も映っていないスクリーンがぼんやりと光っている。鑑賞席からスクリーンまでの間の空間を、暗闇に目が慣れた人たちがうろうろと歩いている。その姿が映画「未知との遭遇」でマザーシップから降りてくる宇宙人たちのように見えた。

連れは影絵なんか見えなかったという。ガイドもここにはほのかな光以外何もないという。そんなはずはない。

鼻をつままれてもわからないほどの闇が存在した昔。その中で暮らした人々が闇の中に何を見ていたのか。わたしにはわかる気がする。