池ノ上の看板建築
東京都世田谷区北沢1-32-5
池ノ上に看板建築が残っているというので、自転車通勤の帰り道に寄ってみた。寒くなると遠出をするのが億劫になるので、夜勤帰りのちょいポタが多くなる。
昔は高級紳士服の仕立屋だったらしいのだが、今は建物も住人も隠居中といった風情。隣のたばこ屋と同じ名前の表札が掛かっていたけれど、関係あるのかな。
二階の戸袋には青海波に飛ぶ千鳥、その窓の下には網代模様があしらわれている。くたびれてはいるけれど、なかなかに粋な佇まいだ。
今どきの若いモンはファストファッションとか何とか言うお気楽な服を着て、まったくおしゃれというものがわかっとらん。大正のモダンボーイだったお爺さんは、そんなような事をブツブツ言いながら、苦虫を噛みつぶしたような顔で道行く人を見ている。そんな雰囲気を感じさせる。
今や散歩好きの一般市民にも知られるようになった看板建築だが、昭和50年(1975)に藤森照信建築探偵が命名するまでは、特に注目される事もなく時代の波に呑まれて消え去ろうとしていた。その後、文化財指定を受けたり小金井公園のたてもの園に移築保存されたものもあるけれど、多くは失われて自転車散歩ではなかなか出会う事がない。
お爺さん、長生きしてね。写真を撮りながら、そんな言葉をかけたくなった。