石の反り橋
東京都大島町泉津
人間がその歴史を刻み始めてから、何万年かの間の足跡をすべて記録したらどうなるだろうと考えることがある。足の裏に赤いインキを塗ってその足跡がすべて残せたら、地球は真っ赤に塗りつぶされるだろうか。
「人跡未踏」と思っていた高山や砂漠の真ん中にも、案外、赤い印が付くかも知れない。あるいは、まさかと思うような身近な場所に、塗り残しが見つかることもあるだろうか。それはどこだろうと想像してみる。
泉津の集落を抜けて登り基調になった大島一周道路が、高度を稼ぐために大島公園の先でジグザグを描く2回目のヘアピンカーブを曲がったところの道端に、「石の反り橋」と書かれた説明板を見つけた。森の奥に天正二十一年(1552)の噴火の遺跡が残っているというのだ。
獣道ほどのかすかな踏み跡が森の奥に延びている。その先にあった石橋は小さくて、草木に埋もれて消え入りそうな姿だった。
最初に書いた話で言えば、この周辺の塗られ具合はどんな感じだろうか。林業や狩猟をする人たちによって真っ赤に塗りつぶされているのか、それともたまに迷い込む人の足跡がうっすらと残されている程度なのか。この石橋を見つけた人の足跡はどんな風についているのだろう。
噴火のあとすぐにここを訪れた人がいたのか、それとも何十年も経ったある日、偶然迷い込んだ人が見つけたものなのか。
気になる。