日野宿健康長寿地蔵尊
東京都日野市日野本町7-5-19
真夜中、階下から「すー、すー」という引き摺るような音をたてて何かが動いている気配がする。ギギギと扉の軋む音がして、しばらく後にゴーと水が流れる音がする。年寄りがトイレに起きる音だとわかっていても、やっぱり怖い。
朝起きるとモノが動いていたり、出しっぱなしだった食べ物が減っていたりする。あるいは、誰もいないはずの台所で鍋が焦げ付いていたり、どこからかチョロチョロと水の漏れる音がする。これも年寄りの仕業か、あるいはネズミかもしれない。そういう不思議体験が続いたある日、ふと気がついた。
「ごめんなさい」と先に謝っておく。
昔の人が想像した妖怪の正体って、いろいろなことが不自由になった老人だったんじゃないかな。
そんなことを言うと「人を化けもの扱いするな!」とお叱りを受けるのは覚悟の上。わたしもこんなことは言いたくないが、はやりのマンガじゃないけれど、「妖怪のせい」ということにしておけば誰かを傷つけなくて済む。そんな気がする。
医療の技術が進んでおらず、介護施設などもなかった昔の人は、そうやって心の整理をつけていたのではないだろうか。
そういう醜態を見せたくない。人の手を煩わせることなく、人間の尊厳を保ったままで最後の時を迎えたい。いわゆる「ぴんぴんころり」を願う人は多い。普門寺の門前にはそういった祈りに応える日野宿健康長寿地蔵尊、別名けんころ地蔵が祀られていた。