2016年2月26日(金)

朝潮橋の廃墟

東京都中央区月島4-4-4

朝潮橋から

「あれ、ここには何があったっけ?」と思い出すいとまもなく、あっと言う間に変わる景色があるかと思えば、いつまで経っても変わらずに残る不思議もある。

参道

月島と晴海の間、朝潮運河に架かる朝潮橋のたもとに寂れた雰囲気の古い建物が建っている。お堂の陰に隠れるように建つ家の門には郵便ポストが掛かっているが、住人がいるような気配は感じられない。築地本願寺に似たエキゾチックな意匠が、密林に埋もれたアンコールワットの廃墟を彷彿とさせる。

玉垣の正面に「開祖 長井眞琴」と書かれているのは、東京帝大や日大、東洋大などで教授を務めた仏教学者の名前だ。それに続いて、政治家や地元の名士らしい人達の名前がずらりと並んでいる。建物の脇に掲げられた江戸消防記念会の奉納額には昭和36年(1961)の日付が記されていた。

山奥の廃寺ならば、山姥がなかで出刃包丁を研いでいるかもしれない、なんて不気味な想像が働くが、ここは東京のどまんなか。山姥もタヌキも棲んではいないだろう。気にはなるけれど、触れてはいけないような雰囲気も漂っている。その感じは、公園の隅にうずくまる自由人の発するオーラにも似て、わたしの心に不穏なモヤモヤをかき立てる。