川浦口留番所
山梨県山梨市三富川浦1221-1
「お奉行、外は良い天気でございますぞ。通るものもほとんどおりませんし、息抜きにそこらを一回りしたいところでございますな。」
ガラス戸の中に閉じ込められて浮かぬ顔をした人形から、そんな声が聞こえてくるような気がする。
平成10年(1998)に雁坂トンネルが開通するまで、雁坂峠を越えるにはしっかりとした登山の準備をして徒歩で行くしかなかった。国道でありながら車では通り抜けらず、「開かずの国道」と呼ばれていた。
そんな難路だから、この人形たちが生きた人間だった昔は徒歩が当たり前、とは言っても、それほど多くの旅人がこの道を利用することはなかっただろう。しかし、通る人が少なかったとしても、甲斐と武蔵、二つの国を結ぶ往還の境であるから番所は置かねばならぬ。退屈そうなお役人人形にはかわいそうだが、お勤めとあきらめて頑張ってもらわなければなるまい。
現在はここで取り調べを受けることはなく、敢えて立ち寄るほどの歴史的価値もあるかどうかわからないけれど、ハイカーや自転車乗りにとってはトイレ休憩ができるのが助かる。