三原山火口
東京都大島町野増 三原山火口展望台
この巨大な穴の奥から、いったい何が出てくるのだろう。怪獣、悪魔、それとも機を窺って潜伏していたUFO?
いや、出てくるのではなくわたしが吸い込まれるのかも知れない。火口の底で待っているのは暗黒の地底世界か、夢幻の異次元空間か。
荒涼とした三原山山頂に口を開けた噴火口は、快晴の青空でも晴らすことのできない暗く不穏な想像をわたしの胸の内にかき立てる。ところどころから上がる白い蒸気が、明らかにこの下には何かいる、何かがあるという気配を感じさせる。それはなんだろう。
全島民の島外避難という事態になった1986年の大噴火の際には、火口から溢れた溶岩が内輪山の内側を満たし、幾本もの火柱が闇夜を焦がした。あふれ出た溶岩流は町を襲わんと下りてくる龍のようだったという。
その龍は今もこの下で、とぐろを巻いてうごめいているのだろう。惰眠をむさぼる龍を怒らせ、再び目覚めさせるような悪行をわれわれは働いていないだろうか。振り返ってみるわたしの頭の中には、イヤなことばかりが浮かんでくる。
お願いです。どうぞ安らかに眠っていてください。そう祈りながら、そうっと忍び足で火口を後にした。