2017年6月17日(土)

四季の森公園 しょうぶ園

神奈川県横浜市緑区寺山町291

しょうぶ園

ハナショウブには雅なイメージがある。高貴な色とされる紫の花から連想されるのは、尾形光琳の燕子花図(かきつばたず)の金屏風や在原業平が「か」「き」「つ」「ば」「た」を詠んだという八橋の話(伊勢物語)。源氏物語の作者、「紫」式部も頭に浮かんでくる。

木道

御殿の奥で貴族たちに愛でられる都の花、かと思いきや、多摩の菖蒲園は山の中、清水が流れる谷戸の奥で見ることが多い。街中の庭園でも、たとえば明治神宮御苑では谷戸の風景を模したなかに菖蒲田が広がっている。

四季の森のしょうぶ園も山の中。山側の南口から入ると、尾根上の広場から谷へ下り、しばらく薄暗い山道を歩いたところで急に視界が開けて菖蒲田が現れる。山から下りてきて、初めて出会う人里という感じだ。たくさんの人の笑いさざめく声と一面を彩る花の景色にホッと人心地つく。

沢を下りはす池の周辺を見て北口から折り返してくると、また違った感傷が胸の内に去来する。じゃぶじゃぶ池や遊具広場方面に向かう家族連れと別れ、一人ぼっちになって谷の奥へ歩いていく道行きは、都から離れて山の辺へ分け入っていく気分。そこに現れたハナショウブの花が、隠居して山に籠られた皇族、あるいは政争に負けて落ち延びてこられた雅な方に見えてくる。人里離れた山奥に住まいしていても、都暮らしの気品を保ちつつ泰然として暮らしていらっしゃる。

その人柄を慕って人が集まり集落をなした、菖蒲田がそんな景色に見えてくる。これだけ集まっていれば、お寂しくはないだろう。