起こす
宮城県石巻市鮎川浜 のり浜
海の向こうからなにかが来るような気がする。遠い異国の地からの訪問者か、母なる海から生まれた新しい命か。なにかはわからない未知なるものを迎えたい。そんな期待をこめて、私はいつも海を眺める。
その「なにか」に最近、失われたものが帰って(返って)くるかもしれない、という期待が加わった。海によってもたらされた喪失感を、埋めてくれるのも海なんだと思う。
プライベートビーチのように静かで美しいのり浜で、倒れている何かを起こす。それは傷ついた人を助けることを象徴する行為かもしれないし、折れてしまった自分の心を立て直すということでもあるかもしれない。
そうしたわれわれのアクションを、海に、いや海の向こうの誰かに見て欲しい。私たちはもう大丈夫。だから、あなたも安心して。そして、できることなら帰ってきて私たちに力を貸して。
かつての美術作品は絵画や彫刻などいつまでも残るものだったが、最近は一過性のアート作品も増えてきた。Art Festivalの会期が終われば、ここもまた静かな浜に戻るだろう。みんなが起こしたものたちも、また、自然に還っていく。
しかし、同じように一過性のパフォーマンスである演劇や音楽(演奏)が、脚本や楽譜によって継承され演者を変えて継続していくように、この作品は後世へと継承しようとする人たちが現れるような気がする。その数は決して多くはないかもしれないが、人知れず行われる宗教的な秘儀のように、この後も人々はここで何かを起こし続けるんじゃないか。
いつしかのり浜は海の向こうとこちらをつなぐ聖地になることだろう。ふと、そんなことを考えた。
(作品解説) : 起こす | 起きる(唐船番所跡) || のり浜の霊洞