大路池・迷子椎
東京都三宅島三宅村坪田4188 アカコッコ館
♪ 湖に君は身を投げた 花のしずくが落ちるように
ザ・テンプターズのこの歌(エメラルドの伝説(1968)、作詞:なかにし礼・作曲:村井邦彦)が好きだった。小学生のくせに、生意気に「逢いたいぃ 君に逢いたぁい」なんて絶叫していたっけ。
あの湖はこんなところだったんだろうか。深い森の奥に眠る大路池を見て、そんな昔を懐かしく思い出した。
水際まで原生林が迫っているので、池畔に跪いて「緑の水に口づける」事はできない。池に向かって突き出した桟橋の上から眺める水面は、失った彼女のように遠く感じられる。
池を包み込む原生林の中に、迷子椎と名付けられた古木が大きく枝を広げていた。説明には、密林で迷子になってもこの木を頼りにすれば助かると書いてあったが、わたしにはこの椎の木自身が迷子になっているように見えた。湖に身を投げた彼女を追って森の中を彷徨っている男。天を仰いで広げられた手(枝)が、彼女を求めている。
逢いたい。
迷子椎の姿が、島に流された流刑囚や火山災害で家族を失った島民、傷心の思いを抱いて島に流れ着いた旅人、その他いろいろな人たちの思いを代弁している。…そんな気がした。