表参道の石灯籠
東京都港区北青山3-6-12
雑誌“東京人”4月号(都市出版)に、「石灯籠の物語」と題された歴史学者磯田道史の随筆が掲載されていた。昭和20年5月25日にあった山の手空襲の時、逃げまどう人々が表参道の安田銀行(現みずほ銀行)前に殺到し、死体から流れ出た脂で石灯籠に黒いシミができたという話だ。そのシミは何十年も経った今でも消えないという。
気になって、近くに行ったついでにちょっと見てきた。
確かに黒っぽい汚れはあるけれど、随筆に書かれているようなものなのか、排気ガスによるものか判然としない。関係があるのかどうか、交差点側の角に損傷がある。
古い道の辻にある庚申塔に江戸時代の年号を見ることがあるように、石造りのものは長い歴史を生き延びてきている。この石灯籠も、戦争の惨事を見てきたことは事実だろう。しかし、そのことを石灯籠は黙して語らない。
人目が気になったせいもあるけれど、こんなに楽しそうに人々が行き交う街中に今も戦争の傷跡が残されていることに慄然として、そそくさとその場を離れた。
※訪問の翌年(2007)に石灯籠の裏に平和記念碑が建てられました