2006年7月1日(土)

中銀カプセルタワービル

東京都中央区銀座8-16-10

中銀カプセルタワービル

映画「2001年宇宙の旅」(監督:スタンリー・キューブリック、1968)の中程に、制御コンピュータHAL9000の不可解な行動を怪しんだボーマン船長と副船長(プール博士)が、HALに話を聞かれないようスペースポッドにこもって密談をするシーンがある。HALは彼らの行動を訝しみ、ポッドの丸窓を通して彼らの唇を読んで…、intermission のあと映画はクライマックスへ向かって突き進む。

このビルの一階に置かれたサンプルのカプセルを見る時、いつもこのシーンを思い出していた。そして次に浮かぶのは、無重力の中でHALと戦うボーマン船長をHALの目である丸窓から見る映像だ。

サンプル

丸窓が一つだけのカプセルという非現実的な姿に未来を感じ、その中にある薄暗がりに不安をかき立てられる。そのアンバランスな気持ちが、あの映画を見た時の感じにダブってくる。

子供の時に輝ける未来としてあこがれていた21世紀は、現実になってみると思ったよりもつまらなかった。黒川紀章が1972年に見た未来、アーサー・C・クラークが思い描いた2001年には、とうてい及ばなかったようだ。

「ベランダの無いこのマンションではどうやって洗濯物を干すのだろう?」と思ったら、丸窓の連なりがコインランドリーに並ぶ乾燥機に見えてきた。21世紀を迎えた未来の我が家にやってきた新製品は、斜めドラム式洗濯・乾燥機だったという皮肉。見上げた窓の一つに、洗濯物と一緒にもみくちゃにされるハツカネズミ(映画「スチュアート・リトル」、監督:ロブ・ミンコフ、1999)の姿が、一瞬、映って消えた気がした。

設計:黒川紀章都市計画事務所。昭和47年(1972)に竣工した、メタボリズム(Metabolism)の代表的な作品の一つだ。

※ 老朽化のため、2022年4月に惜しまれつつ解体が始まりました

デモベースの窓に書かれた解説