於岩稲荷田宮神社(お岩稲荷)
東京都新宿区左門町17
小学校の臨海学校の夜に、先生がしてくれた「親不知」の怪談話が今でも忘れられない。一語一語を闇の中に置いていくような静かな語りが醸し出す緊張と、最後にそれが解き放たれた時の衝撃、そしてパニック。ホラー映画のような映像が無くても、十分に怖かった。
怪談といえば四谷怪談のお岩さんが有名だが、モデルになった四谷田宮家のお岩は怨霊とは関係なく、傾きかけた家を盛り上げた立派な婦人であったという。その恩恵にあずかろうとして田宮家の屋敷社を近隣の人々が参拝するようになったのが、於岩稲荷田宮神社の縁起だ。鶴屋南北は、実在のお岩とは関係なく、江戸で有名な神社の名前だけを借りて四谷怪談を創作したわけだ。
歌舞伎などで四谷怪談を演じる時には、祟りを恐れてお岩稲荷にお詣りをするのが通例になっている。ちょっと不気味な話だが、怪談の芝居はトリックのために複雑な仕掛けを使い、照明も暗かったので怪我をすることも多かった、というのが祟りの正体のようだ。