2006年8月20日(日)

はなし塚

東京都台東区寿2-9-7 (本法寺)

はなし塚

これまでの戦争遺跡関連記事では、空襲被害の跡や軍の施設などを紹介してきたが、ちょっと毛色の変わった、しかし見過ごしにはできない遺跡を今回は取り上げてみる。

「はなし塚」と彫られたこの碑は、戦時中、時局にそぐわないと判断されて公演が自粛された廓話など五十三種の落語演目の墓碑だ。単に自粛するだけでなく墓を建ててしまう所に落語家の洒落っ気を感じるが、その裏には永年にわたって守ってきた伝統を否定されることへのささやかなレジスタンスもこめられていたことだろう。

本法寺

「非国民!」という忌まわしき呪文により、さまざまなものが封じ込められた暗い時代の証人として、はなし塚の碑は静かに佇んでいる。

私は落語に詳しくないので、禁止された演目がどんな内容なのかわからないが、下品なB級モノではなく、正当に評価されてしかるべき作品であることは想像に難くない。これらの作品をさして、「艶笑」という良い言葉がある。「艶っぽい」という言い回しが、何ともいい感じに心の奥をくすぐってくる。

戦後、自粛が解かれてまた以前のようにこれらの噺を聴くことができるようになった。平和な時代を喜ぶのも束の間、進駐軍の占領中は、これに替わって仇討ちなどに関わる「自粛禁演落語廿七種」が定められたという。

そんな時代が繰り返さないことを祈るばかりだ。

碑 文 | 教育委員会の解説 | 本法寺