はけの道(府中崖線)
多摩川の北側の武蔵野・多摩地区には二つのステージがある。
多摩川が流れる多摩川低地から一段上がった立川段丘と、そして更にもう一段上がった武蔵野台地だ。
それぞれのステージの境は数m〜数十mの段差を持つ崖になっていて、それぞれ府中崖線、国分寺崖線と呼ばれている。崖線はまた土地の呼び名で「ハケ」と呼ばれており、ハケからしみ出る湧き水が川となり、用水となって土地を潤し、かつてはハケ下に広い水田が開かれていた。
府中崖線の縁に残るはけの道をたどってみよう。
…
スタートは多摩川サイクリング道路を調布市と狛江市の境から300mほど下った水神前から。
ここが府中崖線の東端になる。ここから北に向かう細い道にはいると、すぐに万葉歌碑がある。かつては千町耕地と呼ばれた水田地帯だった多摩川住宅を左手に見ながら崖線に沿って細い道を走る。桜の季節には団地の外周に沿って見事な桜並木の続くはけ下の道を走るといい。途中、はけ下用水の跡を親水公園化したせせらぎの散歩道があるが、いろいろと問題があって今は寂れているのが残念だ。
道は必ずしも一本で続いてはいないが、崖線をはずれないように気をつけて、気分に任せてハケの上下の道を適当に選んで走っていこう。
ハケ沿いでは昔からの農家の屋敷森や雑木林が心和む風景を作っているが、下布田遺跡、古天神公園、角川大映撮影所、映画俳優の碑、調布市郷土博物館、恐竜公園を経て、若宮八幡宮までの狛江・調布区間は、かなり開発が進んでいるのが残念だ。
ハケの上縁の道を拾っていくと、調布市と府中市の境で品川通りを渡る。南白糸台小学校の北側を巻くように行く細い道は「いききの道」と呼ばれ、随所に案内が設けられているので、土地にまつわる一口メモを拾いながら走るのも楽しい。
ハケ下の団地の名前になっている「車返し」の地名の由来を伝える本願寺を通り、西武線を越える。庚申塔の祀られた溝合神社の先で道は直角に曲がってハケから離れるが、ハケにこだわりたい場合は数mだけ住宅の横の隙間を通らせてもらおう。
黒澤明監督の名作「羅生門」のモデルになったという大きな山門のある東郷寺の南側を通って滝神社を過ぎると急に視界が開けて東京競馬場に着く。ここではけの道はいったん中締めだ。
競馬場前の大きな森はブリジストンが所有する鳩林荘といい、木の間から大きなかやぶき屋根が見える。その横の鳩林坂を上がり、京王線に沿って左(西)へ曲り、大國魂神社を経て、府中用水跡の御猟場道を国立市へ向かう。やがて水流が復活し、NECの北側で国立市にはいると、あたりはだんだんに田園風景になっていく。
国立市谷保にはまだまだ水田が多い。これまで来た道も昔はこんな感じだったんだろうか。
国立市では「古代の丘とハケ下の道コース」「中世の歴史探訪コース」「城山の森から多摩川へのコース」などの散策モデルコースを設定して、随所に地図のついた道案内を設置している。
これを参考にして、谷保天満宮、城山、南養寺、ママ下湧水などを巡って青柳まで、好きなように道をとって走ろう。
帰りは多摩川サイクリングロードをまっすぐだ。猛スピードのロードレーサーやウォーキングのお年寄りには、くれぐれも気を付けて。
(文中で紹介している各スポットと写真にはリンクが張ってあります。)