奥多摩むかしみち
自転車で行けないこともないけれど、たまには自転車を降りて自然の中を歩いてみるのもいいんじゃないかな。奥多摩駅から奥多摩湖(小河内ダム)まで、青梅街道の旧道を歩いてみよう。
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JR青梅線は、東京から1時間ちょっとの距離ながら、青梅を過ぎたあたりからは乗っているだけで休日気分になれるうれしい路線だ。終点の奥多摩駅に降立つと、山小屋のような駅舎のデザインがさらに気分を盛上げてくれる。
駅を降りて左手へ坂を下っていく。氷川三本スギが聳える奥氷川神社の角を右に曲って日原川を渡り、農協と郵便局の向いを右にはいる。道しるべに従っていくとほどなく小河内ダム工事のために敷かれた水根貨物線の廃線跡が現れる。谷を渡った線路がトンネルに吸込まれるところの周囲はちょっとした山道だが、まぁMTBなら通れないことはなさそうだ。ほどなく槐木(さいかちぎ)の集落へ出て、しばらく車道(と言っても、滅多に車には出会わない)を行くことになる。
檜村を過ぎ小中沢まで来たら一息いれよう。不動の上滝の清流が気持ちいい。道の左手に見え隠れする多摩川上流の渓谷を見ながら進んでいくと、境の集落が見えてくる。先ほど見てきた廃線の先が鉄橋となって頭上を越えていく。集落を過ぎると道は砂利道になって林の中を行くようになり、やがて右手の大きな断崖にへばりつくようにして現れるのが白髭神社だ。東京都の天然記念物に指定された磐座(いわくら)の迫力もさることながら、北海道の木彫人形のようなかわいい狛犬のお迎えもうれしい。
これからしばらくは弁慶の腕ぬき岩や耳神様、牛頭(ごず)観音など、土地の人たちの息づかいが感じられるような路傍の小物を拾いながら歩いていく。かつてこの街道を旅した人々の残り香が、今は人影のないたてば茶屋址に微かに漂っていた。
しだくら橋と道所橋の二つの吊橋は、残念ながら渡っても引返してくるだけだが、ゆらゆらと揺れる足下に多摩川の渓流を望む景色が素晴しい。やがて小河内ダムのダム壁が行く手を阻むように現れると、道は西久保の切返しでUターンをするように折れてダムを巻くように登っていく。西久保トンネルへ吸込まれる車道から別れて中山集落へと登る山道を行く。さすがにこの道は自転車では無理だろう。大きなダム壁がだんだんに下になって奥多摩湖の湖面が見えてくる。今まで平坦に近い道を歩いてきたので息が切れるけれど、やっぱり山はいい。そんな気分になって登っていく。
むかしみちの最後は奥多摩湖を眼下に望む水根集落だ。階段状になった観客席のような集落から奥多摩の大自然を臨む。水根からは山々に囲まれて静謐に眠るように見えた奥多摩湖に降りてみると、久しぶりに見る人や車に面食らうかもしれない。
(文中で紹介している各スポットと写真にはリンクが張ってあります。)