木下沢梅林
東京都八王子市裏高尾町
裏高尾の集落の中心を抜け民家もまばらになった頃、旧甲州街道は煉瓦で造られたガードをくぐって中央線の北側にでる。そこから右折して街道を離れた山道は2回曲って中央高速を越えたところですばらしい景色を見せてくれる。
その現れ方は桃源郷にたどり着いた漁師の気分も斯くやと思わせるようだ。
まだ木々が葉を落したままのモノトーンの山肌一面を、たなびく春霞のように紅白の梅の花が覆っている。梅の木は1,400本を数えるという。
甘い実のなる桃の木は、花咲く頃の穏やかな気候とあいまってユートピアの象徴にふさわしい。それに対して梅干のイメージはちょっと良くないかもしれないが、寒い冬を耐えて春の訪れを告げ知らせるように咲く梅の花も、同じように人々を幸せにすることに変りはない。
「春が来た、春が来た、山に来た、里に来た、…」と、つい口ずさみたくなる風景だ。