2009年10月17日(土)

遠吠えする狛犬

東京都中央区日本橋茅場町1-6-16 (日枝神社日本橋摂社)

吽形

ビルの谷間に挟まれた小さな境内で、二匹の狛犬が天を仰いでいた。コンクリートジャングルに置き去りにされて、どこかへ帰るすべを探しているのだろうか。遠吠えの声は魔都東京の空に吸い込まれて、誰の耳にも届かない。

阿形

「我、山に向かいて目をあぐ。わが助けはいずこより来るや。」(旧約聖書詩篇121篇)

神道の狛犬がキリスト教の御言葉を唱えるとは思えないが、背筋をピンと伸ばし、口を真一文字に閉じてじっと空をみつめる吽形の姿は、敬虔な修道士のようにも見える。顔つきも心なしか洋風のようだ。

奉納の銘は昭和9年(1934)。満州事変(1931)、五・一五事件(1932)、国際連盟脱退(1933)、二・二六事件(1936)を経て、日中戦争開戦(1937)へと続く時代の不穏な空気を、狛犬たちは敏感に感じ取っていたのだろうか。