尾道市役所の狛犬
広島県尾道市久保1-15-1
市役所に狛犬がいる。
狛犬は大雑把に言えば番犬だから、どこにいても、なにを護っていてもおかしくはないけれど、神社仏閣以外で睨みを利かせているのを見るのは初めてだ。
吽形の台座に由来らしきものが記されているのだが、摩滅が激しくて読むことができない。かろうじて「昭和十八年」という日付だけが判読できた。
ネット上の情報によれば、その年(1943)に尾道国民職業指導所(現在のハローワーク)の正門前に設置されたものらしい。その後、千光寺公園の尾道市立美術館を護っていたこともあるようだ。あちこちを転々として、今は市役所前に落ち着いた。
顔つきは戦時下の空気を映して厳めしい。国家総動員法が制定されたのが昭和13年(1938)。働き盛りの若者たちは兵隊にとられ、銃後を守る女性や年長者は軍需工場などに動員されていた。門口を護る狛犬、と言うよりも、百獣の王である獅子として民を統率し鼓舞していた、いや、鞭打っていたのかもしれない。
今は横を向いて設置されているが、由来書きの彫られている場所から考えると、元は正面を向いて来訪者を睨みつけていたと思われる。「働かざるもの食うべからず」「お国のために働け働け」。そんなセリフが聞こえてくるような気がした。