首無し狛犬
広島県尾道市長江1-3-5 艮神社
その狛犬には首がなかった。
これまでにも戦災などで体の一部が欠けた狛犬を見たことがあるけれど、この狛犬は明らかにそれらとは違う異様な雰囲気を漂わせている。
台座には文政八年六月(1825)の日付が見えるが、台座と狛犬本体の石の状態に違和感があるので、違う台座を転用しているのかもしれない。寛政十二年十二月(1801)に納められた拝殿前の狛犬よりはるかに傷んで見える。
それでも打ち棄てられることなく、境内の片隅に据えられているのはなぜか。
頭の無い首は異様に長く、狛犬とは別の生き物のようだ。前足には動きを封じるかのようにコンクリートの枷がはめられている。正座した足の上に石を載せる拷問(石抱き)のイメージもふと頭をよぎる。
町に災いをもたらした妖獣を退治し、呪いを石の中に封じ込めた。そんな物語が想像されるけれど、どこにも説明はなく、尋ねる人もいない。ふと空を見上げると、大きく枝を広げた大楠が、不吉な雷雲となって境内を覆っているように思えた。