田園の憂鬱由縁の地
神奈川県横浜市青葉区鉄町1115
田園は憂鬱だろうか。
のどかな田園風景のひろがる青葉区鉄町(くろがねちょう)の県道沿いに、佐藤春夫の文学碑が建っている。彼は大正6年(1917)から4年間この地に住み、代表作「田園の憂鬱」を書いた。物語はフィクションであるけれど、作家のここでの生活が下敷きになっていることは想像に難くない。
主人公の青年は、息苦しい都会を逃れ、優しく平凡な自然の中で暮らしたいと願ってこの地に越してきた。しかし、主人公の憂鬱は解消されなかったようだ。旧弊な人間関係や、虫や動物などの訪問者に悩まされ、狂気すらも感じさせるほどに鬱屈していく彼の心が痛い。
悩んだり、傷ついたり、不安定な自分の内面と向き合って、葛藤したり憂鬱になったりするのは若者の特権だ。わたしにもそんな日々があった、…かなぁと思いながら、ここからほど近い寺家ふるさと村を訪ねてみた。
黄金色の稲穂が谷戸田を埋める里山の風景に心が和む。どこに憂鬱になる要素があるのかと思ってしまうけれど、それはイイところだけ見て帰る一過性の訪問者だからか、それとももう年をとってそういうメランコリックな感受性が無くなってしまったのだろうか。
田園の憂鬱に共感できないことが、わたしには憂鬱だった。
※ 碑表には、昭和57年に「知人・金子美代子」が建てたと記されている。彼女はこの作品に登場する「村で唯一の女学生」のモデルになった方だそうだ。