岩井堂観音
埼玉県飯能市岩淵746-1
いわゆる「ご本尊」というものは、そのお寺の高僧や仏師が精魂込めて造った仏像である、と思いきや、なんと浅草寺のご本尊は拾いものだという。わが家の近くにも多摩川を流れてきた観音様を祀った祠があるけれど、日本を代表するあの浅草の観音様がそんな得体の知れないものだとは驚きだ。
東京都青梅市と埼玉県飯能市の境にある岩井堂観音は、その観音様の生まれ故郷だと伝えられている。急峻な岩壁にへばりつくようにして建つ観音堂が嵐で流され、観音菩薩像が成木川、入間川から隅田川を経て浅草に流れ着き、漁師の網にかかって浅草寺の本尊となったのだそうだ。
確たる史料もなく、また、浅草寺の観音様は一般に公開されない秘仏なので、この伝承の真偽の程はわからない。現地の説明には、浅草寺もその事実を認め、昭和8年に浅草観音の分身が奉還されたとあるけれど、……。
岩壁の頂上に立って眼下に広がる山里の景色を眺めていると、仙人になったような気分になる。あるいは、山村で都会に出て行った子供の暮らしを案じている老爺の気分か。娘はあの山の向こう、もう手の届かないところに行ってしまったんだなぁ。名声を得て幸せに暮らしているみたいだけれど、少し、寂しいな。
観音堂の主の気持ちが、乗り移ったようだ。
平成21年の説明板 | 平成20年の説明書き | 堂宇改築記念碑 碑文 || 岩の上の景色 | 浅草観音縁起